漢方製剤・生薬製剤・生薬用語の英語表記
Recommended Terminology for Kampo Products,Conventional Crude Drug Products and Crude Drugs
I. 漢方製剤・生薬製剤用語 その2 >>I. 漢方製剤・生薬製剤用語 その1
受入れ/acceptance
漢方製剤、生薬製剤などの工業的製造の第一ステップ。
受入試験 tests for acceptance を行い、生薬、エキスなどの
受入規格 acceptance specification や受入基準 (受入判定基準) acceptance criteria に適合しているかどうかを判定する。
日局生薬であれば
日局規格への適合 conformity to
JP を判断する。
仕込み量/
total amount of crude drugs for extraction, amount of a crude drug for extraction
漢方製剤、生薬製剤などの工業的製造において、
エキス抽出に用いる生薬の
総重量 total amount of crude drugs for extraction、
あるいは各生薬の重量 amount of a crude drug for extraction。
抽出工程/extraction (process)
漢方製剤、生薬製剤などの工業的製造や
自家製剤の作製において、生薬の単味あるいは
混合物から水などの溶媒によって含有成分を抽出液に移行させる工程。
自家製剤では decoction を用いてもよい。抽出に関係する用語として、
抽出溶媒 extraction solvent、抽出温度 extraction temperature、昇温速度 rate of temperature increase、
抽出時間 extraction time、extraction period、抽出率 extraction rate などがある。
分離工程/separation (process)
漢方製剤、生薬製剤などの工業的製造や
自家製剤の作製において、抽出液と生薬残渣とを分ける操作。
固液分離 solid-liquid separation とも言う。煎剤ではこの操作により最終製剤となる。
濃縮工程/concentration (process)
漢方製剤、生薬製剤などの工業的製造において、
抽出液の濃度を高める工程。工業的には、減圧濃縮 vacuum concentration が主に用いられる。
抽出液を濃縮して水飴様の稠度としたものは軟エキスと言う。
乾燥工程/drying (process)
漢方製剤、生薬製剤などの工業的製造において、
抽出液の水分や溶剤を気化させ粉末化する工程。
噴霧乾燥 spray drying や凍結乾燥 lyophilization, freeze drying などがある。
混合工程/mixing (process) , blending (process)
原材料を混ぜ合わせる工程。漢方製剤の工業的製造において、
エキスに賦形剤 excipient などの添加剤 additive を加えて均一になるようにする工程。
blendingという言葉は混合というより調合、配合という意味あいが強い。
造粒工程/granulation (process)
固形製剤の製剤化工程の一つで、顆粒剤や細粒剤を作る工程。その他に、錠剤化工程tableting (process)、カプセル化工程 capsulation (process) などがある。
篩過 (しか) 工程/sieving (process)
一定の大きさのものを選り分ける工程。原料生薬で切度を揃えたり、
顆粒剤などの製剤化工程で粒度を揃えたりする場合に用いられる。
包装工程/packaging (process)
バルク製剤を容器や被包に充填 filling し、表示 labelling / labeling して
最終製品にする工程。例えば、漢方製剤 (最終バルク) Kampo formulation を
漢方製剤 (最終製品) Kampo product にする工程。
出荷/release
漢方製剤、生薬製剤などの工業的製造の最終ステップ。
出荷試験 tests for release を行い、出荷規格 release-specification や出荷基準 (出荷判定基準) release criteria をもとに
適否判定 judgement を行い、合格したものが出荷される。
漢方エキスの日局規格/JP standards for Kampo extracts
漢方エキスの日局規格には下記の記述がある。
(本質 definition)、製法 method of preparation、性状 description、確認試験 identification、純度試験 purity (重金属 heavy metals、ヒ素 arsenic など)、
乾燥減量 loss on drying、灰分 total ash、定量法 assay、貯法containers and storage。
(生薬の) 配合比率/ratio of crude drug component
漢方製剤や生薬製剤を製造する時の
構成生薬の重量の比率。
「一般用漢方処方の手引き」では単位のない比率で示されているが、
日本薬局方に収載されている
漢方エキスでは1日あたりの重量で示されている。(生薬の) 配合量
は amount of crude drug component(s)、(生薬の) 配合理由は reason for crude drug component (s) と表す。
品質管理指標成分/
characteristic constituent for quality control,
characteristic marker for quality control,
marker constituent (compound) for quality control,
characteristic marker constituent (compound) for quality control
「医療用漢方製剤の取り扱いについて」 (昭和60年5月31日、薬審二第120号通知) で
定義されたエキス又は最終製品と
標準湯剤との同等性を確保するための指標となる成分。品質保証の指標にするものであり、
有効性・安全性の指標とは限らない。医薬品製造販売指針の英語版では indicator ingredientsという言葉が使用されているが、
characteristic constituent for quality control 等上記表現を推奨する。
なお、FDAのガイダンスでは、
characteristic marker (for quality control) という表現を使用している。
また、一般的に、 marker compound for quality controlというときもある。
但し後者の場合には、 for quality control を付けないと、何のための marker compound か判らず、誤解を招きやすい。
また、marker constituent (compound) が天然物化学的にかなり広範囲に分布する化合物(例えばβ-シトステロール等)である場合もあり、
そのようなものでないことを意識して、characteristic marker constituent (compound) という使い方もある。
生薬の微生物限度試験法/microbial limits test for crude drugs
『生薬に存在する増殖能力を有する特定の微生物の定性、定量試験法である。
本試験法には生菌数試験 total viable aerobic count (好気性細菌と真菌) 及び特定微生物試験 test for the detection of specified microorganisms
(腸内細菌とその他のグラム陰性菌、大腸菌、サルモネラ及び黄色ブドウ球菌) が含まれる。
試験を遂行するに当たって、外部からの微生物汚染がおこらないように、細心の注意を払う必要がある。
また、被検試料が抗菌作用を有する場合又は抗菌作用を持つ物質が混在する場合は、希釈、ろ過、中和又は不活化などの手段によりその影響を除去しなければならない。
試料は任意に選択した異なる数箇所 (又は部分) から採取したものを混和し用いる。
試料を液体培地で希釈する場合には、速やかに試験を行う。
また、本試験を行うに当たっては、バイオハザード防止に十分に留意する。』 (JP)。
なお、 JP英文版では、 microbial limit test for crude dugsと
limitが単数形になっている。
クロマトフィンガープリント、クロマト指紋/chromatographic fingerprint
クロマトグラフィーを用いて、特定成分を定量するのではなく、クロマトグラフィーチャートの全体パターンから、
物質の質を判定すること (仲井由宣, GMP・ICH医薬用語事典) 。
残留農薬/residual agricultural chemicals, residual agrochemicals pesticide residues, residual pesticides
農薬取締法 The Agricultural Chemicals Regulation Law では、農薬 agricultural chemicals (=agrochemicals) を「農作物 (樹木及び農林産物を含む。
以下「農作物等」という。) を害する菌、線虫、だに、昆虫、ねずみその他の動植物又はウイルス (以下「病害虫」と総称する。) の防除に用いられる殺菌剤、
殺虫剤その他の薬剤 (その薬剤を原料又は材料として使用した資材で当該防除に用いられるもののうち政令で定めるものを含む。) 及び
農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる植物成長調整剤、発芽抑制剤その他の薬剤をいう。」と規定している。
農薬は、用途によって殺虫剤 insecticides、殺菌剤 fungicides、除草剤 herbicides、殺そ剤 rodenticides、植物成長調整剤 plant growth regulators などに
分類される。しかし、一般的な意味では、 agricultural chemicalsは農薬のみならず化学肥料 fertilizers も含むことになり、
日本語の示す農薬の意味と完全には一致しない。また、良く用いられる pesticide (殺虫剤と訳される場合が多い) の意味は、
“a substance used for destroying insects or other organisms harmful to cultivated plants” で、植物成長調整剤や、忌避剤 rejectantが含まれないため、
これも正確には農薬と同義ではない。
一方、
WHO guidelines for assessing quality of herbal medicines with references to contaminants and residues では
pesticide を“any substance intended for preventing、destroying、attracting、repelling、or controlling any pest including unwanted species of plants or animals”
と前述の一般的な意味より広く定義し、残留農薬として pesticide residue を用いている。
日本薬局方ではニンジンなどの生薬に、純度試験として
総BHC及び総DDTに関する残留基準 maximum residue limit (maximum residue level) が定められている。
ただし、生薬中に存在するこれらの物質は、栽培時に使われたものの残留ではなく、土壌汚染に由来するものと考えられる。
従って、 agrochemicals であるが、 WHOの分類では、正確には residue (残留物) ではなく、不純物 impurity として取り扱われる。
一方、漢方製剤及び生薬製剤に関し
日本漢方生薬製剤協会の自主基準が定められている有機リン系及び
ピレスロイド系農薬は、実際に使用された農薬に由来するものと考えられるため、 residual pesticidesである。従って、残留農薬を英訳する場合には、
このような意味の差を良く理解して、適切な使用をすべきである。
浸剤・煎剤/infusions and decoctions
『生薬を、通例、精製水で浸出して製した液状の製剤』 (JP)。
漢方の煎じ薬は一種の煎剤であり decoctionと表す。
チンキ剤/tinctures
『通例、生薬をエタノール又はエタノールと
精製水の混液で浸出して製した液状の製剤』 (JP)。