漢方に親しむ
第15回 日漢協・市民公開漢方セミナー 2012年10月11日(木曜日)「漢方に親しむ」ダイナメディカル根津クリニック 定形綾香 先生
健康管理の基本は食養生
テレビや新聞、雑誌などには、「あれを食べると健康にいい」「こういう食事でダイエットできる」といった食に関する情報があふれています。食は、ただ単に食欲を満たすだけでなく、人間が健康に生きていくうえで欠かせないもの、大きな関心事のひとつでしょう。医療においても、食は重要な位置付けになっています。糖尿病などでは食事療法が基本になりますし、心臓病や脳梗塞の予防のために一日の摂取カロリーを制限して体重をコントロールするといった栄養指導も行われています。また、ビタミンやミネラルやタンパク質などをバランス良く摂取することで、骨や筋肉などが維持され、成長期はもちろんのこと、高齢期の生活の質を保つことが出来得るのです。
漢方の世界では、食事をどのように考えているのでしょうか。中国では、3000年も前からすでに「食養生」の大切さが認識されていました。紀元前11世紀~前8世紀の周の時代にはすでに医師という官職があり、その中でも周王室の食事を管理する「食医」は最高位に位置付けられ、「食養生は薬物治療より重要」と考えられていたのです。
周代から約2000年を経た唐代においても、健康管理は食養生が基本で、薬は万が一病気になったときに使うもの、という考え方が変わることはありませんでした。
中国の食養生では、食材一つ一つを「四気(寒熱温涼)」と「五味(酸味・苦味・甘味・辛味・塩味)」に分けて考えます。たとえばキュウリは寒と甘味で「寒甘」、ニラは温と辛味で「温辛」、シソは温と辛味に苦味も加わって「温辛苦」、馬肉は「寒甘酸」というように分類していくのです。
こうした分類の基本になっているのが、「陰陽五行説」という中国独特の哲学思想です。「陰陽説」と「五行説」の二つを組み合わせた理論から構成され、現在の中国伝統医学や鍼灸の世界においては根幹をなす理論となっています。
陰陽五行説では、「陰陽五行のバランスが取れている状態が健康である」と考え、バランスを崩すと病気になるとされています。そこで、病気を未然に防ぐために、からだに熱がたまっていれば冷やし、からだが冷えていれば温める、つまり足りないものは補い、余っているものは捨てるよう説いています。その足し算、引き算こそが食養生と言っていいでしょう。
また、陰陽五行説では、「怒ると肝臓が悪くなる」「苦いものを取ると心臓によい」「大腸が悪いと肺が悪くなる」というように、からだのそれぞれの臓腑と感情や味覚は、深くかかわりあっていると捉えています。
食に関する情報の中でも「生姜入りのシロップを飲んで、冷え予防」「夏野菜は体を冷やすので、体を温める薬味といっしょに食べよう」「体力アップや滋養強壮に黒ゴマなどの黒い食材がよい」といったものは、中国の古代からの食養生から導き出された知恵と言えるでしょう。
「運動」も医療のひとつ
食事と並ぶもうひとつの養生が「運動」です。運動は生命に直結する食事よりも軽視されがちですが、散歩や自転車や水泳などの有酸素運動を定期的に続けることで体重が増えすぎないようにコントロールできますし、糖尿病や高血圧や心筋梗塞、脳梗塞などの病気予防にもつながります。一方、筋力トレーニングなどの無酸素運動も、基礎代謝を増加させ、冷えにくく太りにくい体を作ってくれるのです。そして人口の高齢化が進行しつつある現代社会において、寝たきりにならずに最後まで歩いて元気に生活できる体を維持する上で、運動は欠かせないものとなっています。中国では紀元前の古代から、運動を医療として捉えてきました。古代の運動療法の起源は「導引術」と呼ばれ、ある特定の動作をすることで経絡や五臓に気をめぐらせて、健康な状態を維持しようとするものでした。その後、導引術は「気功術」として武術などの中に残り、現代まで受け継がれています。また、太極拳なども導引術の流れを汲んだ運動です。
養生の最大の目的は病気予防
現存する中国最古の医学書と呼ばれている『黄帝内経』(こうていだいけい)は、「素問」(そもん=医学の基礎理論)と「霊樞」(れいすう=鍼灸理論)に分けられており、「素問」には、「聖人はすでに病んでしまったものを治すのではなく、未病を治すものである。病気になってから薬を飲んだりすることは、のどが乾いてから井戸を掘るようなものである」と説かれています。食事や運動による養生の最大の目的は、病気になってから直すのではなく、病気にならないように予防する、病気の一歩手前で食い止めること。「未病を治す」というのは、漢方医学における根本哲学なのです。
複数の生薬を組み合わせた薬
西洋薬は、単一の成分でできていますが、漢方薬は複数の天然物の組み合わせで構成されています。そしてそのひとつひとつは「生薬」といわれ、自然界にある天然の植物や動物、鉱物が使われています。たとえば、風邪の薬としておなじみの「葛根湯」は、葛根、芍薬、甘草、生姜、桂枝、麻黄、大棗の7種の生薬が配合されています。生姜など、食材としておなじみのものも含まれています。
そのほかにも、シソの葉(紫蘇葉)、にんじん(人参)、ボタンの根の皮(牡丹皮)、みかんの皮(陳皮)、くちなしの実(山梔子)、かきの貝殻(牡蛎)など、身近なものから希少なものまで、たくさんの生薬の組み合わせで漢方薬が作られているのです。
原料が自然界の植物や動物、鉱物と聞いて、安全性を気になさる方も多いでしょう。しかし危険な組み合わせは長い歴史の間に淘汰され、現在は安全なものだけが残っています。そのため副作用の心配は少なく、長く飲み続けることによる安心感がある薬です。
民間薬と漢方薬は似て非なるもの
漢方という言葉が身近になり、あちこちで使われるようになったために、民間薬と混同してしまう人も少なくありません。「ウコンやドクダミ、プーアール茶は、漢方薬ですか」などと質問を受けることもよくあります。実はドクダミやウコンのように、民間薬や食養生で使われている薬剤も、漢方薬の原料になっています。しかし単体で使用される民間薬や健康食品は、漢方薬のように複数の成分を組み合わせることによる相乗作用で治療効果を上げたり、副作用を軽減したりするものではないのです。体質や体力、症状ごとに違う漢方薬
漢方薬の中でも「葛根湯」は風邪薬としておなじみの処方で、ドラッグストアなどでもよく見かけるようになりました。しかし風邪なら誰でもどんな症状でも葛根湯が効くというわけではありません。たとえば、とてもやせていて普段から胃も弱い体質(虚証)の人が風邪をひいたときに葛根湯を飲むと、汗が止まらなくなってだるさが増したり、胃がムカムカしたりするなど、体調を悪化させてしまうことがあります。人それぞれ体質は違いますし、風邪になった時の体力や症状も違います。よりよい治療効果を得るためには、自分に合った漢方薬を選ぶことが大切です。
コラム 女性の冷え症と漢方薬
女性に多い冷え症には西洋薬では対応できないため、漢方薬が大いに役立ちます。しかし冷え方ひとつとっても、タイプの違いによって効果が期待できる漢方薬は違います。
- 手足の冷えるタイプ
- 全身の冷えるタイプ
- 足が冷え、顔はのぼせるタイプ
血液の循環が悪い・むくみやすい
当帰芍薬散など
エネルギーが足りない
真武湯など
血液のめぐりがよくない
ストレスなどでバランスが崩れている
加味逍遙散など
それぞれの得意分野を生かす
西洋医学と漢方医学はどう違うのでしょうか。西洋医学は悪い部分にターゲットを絞って治療するため、検査で異常が見つかった病気が対象です。たとえば、がん、胃潰瘍、糖尿病や高血圧といった生活習慣病は、西洋医学の得意分野と言っていいでしょう。がんなら腫瘍を切除する、がん細胞を殺すために、放射線を照射したり、抗がん剤を投与したりする、糖尿病なら薬で血糖値を下げるというように「効果がわかりやすく、切れ味のいい治療」を行います。一方、漢方医学は、冷えやのぼせ、イライラ、不眠のように「つらい症状が続いているのに、検査ではどこにも異常がなくて困っている」というケースの治療が得意です。漢方医学の治療は、西洋医学では手の届かないところに作用するので、西洋医学的な治療がむずかしかった不調も改善することができ、併用することも可能です。西洋薬にも漢方薬にもそれぞれ特徴があり、苦手な部分を補い合えるような関係にあるのです。
1つの漢方薬で複数の症状を改善
また漢方薬は何種類もの生薬で構成されているため、成分が多彩で、その効能は多岐にわたります。たとえば加味逍遙散は、月経痛や月経不順に効果が高い漢方薬ですが、不眠やいらいら、肩こりなどにも有効です。「月経痛の軽減を目的に加味逍遙散を飲んだら、他の症状まで一度に治ってしまった」というような嬉しい効果も期待できるのです。漢方薬を上手に利用しながら、元気に過ごしていきましょう。
漢方薬に関する素朴な疑問にお答えします。
Q1 漢方薬の飲み方を教えてください。水とお湯ではどちらがいいのでしょうか。
「漢方薬は効果が出るまで時間がかかる」と思われがちですが、種類によって効果の出方が異なります。たとえば風邪薬として使われるようなものは速効性がある一方で、根本的に体質を改善していくようなものは、時間がかかり、3か月程度たってから効果が表れるケースもあります。
自分の体質に合ったものなら長期間同じ漢方薬を飲み続けても問題ありませんが、漢方薬にも副作用はあるので、必ず専門家(医師)に相談するようにしてください。
また、漢方薬の効き方は個人差も大きく、飲んで数日ですごく良くなったという人もいますし、同じ薬なのに数週間かかったという人もいます。効果が実感できないときは自己判断で辞めるのではなく、医師に相談しましょう。
自分の体質に合ったものなら長期間同じ漢方薬を飲み続けても問題ありませんが、漢方薬にも副作用はあるので、必ず専門家(医師)に相談するようにしてください。
また、漢方薬の効き方は個人差も大きく、飲んで数日ですごく良くなったという人もいますし、同じ薬なのに数週間かかったという人もいます。効果が実感できないときは自己判断で辞めるのではなく、医師に相談しましょう。
Q6 以前服用していた漢方薬が残っています。
一つの症状は同じでも、体質や体の状態が変わっていたり、他の部分は違っていたりすることがあります。自分ではなかなかわからないので、必ず医師に相談してください。
Q1 漢方薬の飲み方を教えてください。水とお湯ではどちらがいいのでしょうか。
牛乳やコーヒーと一緒に飲んでも大丈夫でしょうか。(35歳・女性)
「漢方薬は効果が出るまで時間がかかる」と思われがちですが、種類によって効果の出方が異なります。たとえば風邪薬として使われるようなものは速効性がある一方で、根本的に体質を改善していくようなものは、時間がかかり、3か月程度たってから効果が表れるケースもあります。自分の体質に合ったものなら長期間同じ漢方薬を飲み続けても問題ありませんが、漢方薬にも副作用はあるので、必ず専門家(医師)に相談するようにしてください。
また、漢方薬の効き方は個人差も大きく、飲んで数日ですごく良くなったという人もいますし、同じ薬なのに数週間かかったという人もいます。効果が実感できないときは自己判断で辞めるのではなく、医師に相談しましょう。
Q2 漢服用してから効果が出るまでどのくらいの期間がかかりますか。
「漢方薬は効果が出るまで時間がかかる」と思われがちですが、種類によって効果の出方が異なります。たとえば風邪薬として使われるようなものは速効性がある一方で、根本的に体質を改善していくようなものは、時間がかかり、3か月程度たってから効果が表れるケースもあります。自分の体質に合ったものなら長期間同じ漢方薬を飲み続けても問題ありませんが、漢方薬にも副作用はあるので、必ず専門家(医師)に相談するようにしてください。
また、漢方薬の効き方は個人差も大きく、飲んで数日ですごく良くなったという人もいますし、同じ薬なのに数週間かかったという人もいます。効果が実感できないときは自己判断で辞めるのではなく、医師に相談しましょう。