胃腸と漢方 ―健康な心と身体は元気な胃腸から―
何となく胃がもたれる、おなかが痛む、毎朝下痢をする―。多くの方が胃腸の不調を経験したことがあるのではないで
しょうか。こうした症状はガンのような重い病気のサインということもありますが、ほとんどは日々の生活の中でしばしば
経験するもの。病院で検査をしても原因がよくわからないという場合も少なくありません。
日常的な症状だからと、つい我慢してしまいがちですが、不調をそのままにしていては健康的な生活を送ることは できません。
胃腸の状態を改善し、体調を万全に整えるうえで、漢方は大いに利用できます。毎日を心身ともに健康に過ごすために、 この冊子がお役に立てれば幸いです。
日常的な症状だからと、つい我慢してしまいがちですが、不調をそのままにしていては健康的な生活を送ることは できません。
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胃腸の働きは健康の土台
漢方では、胃腸とその働きを「脾胃」と呼び、自然から生命エネルギーを取り込む役割を持った臓器として重要視しています。胃腸の弱い人は疲れやすい、すぐに体調を崩す、眠れないなど何らかの不調を抱えていることが多いものですが、胃腸の 働きを良くする作用のある漢方薬を飲んでいるうちに、胃腸ばかりでなく、あちこちの症状が改善していくことがあります。例えば、長年苦しんできた喘息の発作が出にくくなったり、アトピー性皮膚炎の湿疹が良くなったりなど、一見胃腸とは関係 ないような症状に対して効果が現れることも少なくありません。胃腸の働きを良くすることは、健康の土台を作ること。どんな 立派な建物でも、基礎をしっかりと築かなければ長い年月の間にゆがみが出たり、崩れたりしてしまうことでしょう。元気な 胃腸があってこそ、健康な心と身体は成り立つのです。
西洋医学との違い
西洋医学と漢方では、病気や病人のとらえかたが大きく異なります。西洋医学では、人体をさまざまな臓器や器官の集 合体としてとらえ、「いずれかの部分に異常が起こると病気が発生する」と考えています。検査で臓器別に異常を探していき、 明らかに異常が認められる部分だけを対象に治療を行うので、より確実に病気を治せる強みがあります。しかし病気の部位 に着目するあまり、からだ全体には目を向けようとしない傾向があります。一方、漢方では、人間を臓器別に細分化しようとせず、「一人の人間」としてとらえます。身体の中ではさまざまな臓器と器官 が関連しあって全体の調和を保っており、バランスが崩れたときに病気が生じると位置づけているのです。そのため、異常 のある部分だけにターゲットをしぼって治療するのではなく、身体全体のバランスを整えることで各々の症状も改善させてい きます。
漢方も西洋医学同様、「万能」ではありません。漢方と西洋医学のそれぞれの利点を生かして、適材適所で利用していくと、治療の幅を広げていくことができます。
例えば初期のガンなどは、比較的安全に切除手術が行えるので、高い 確率で治すことが期待できます。また肺炎などの感染症のように治療の 緊急性が高く、効果が確実な薬剤がある場合も、西洋医学的な治療を優 先したほうがよいでしょう。
その半面、西洋医学は「何となく体がだるい」とか「疲れが取れない」「風 邪をひきやすい」など、自覚症状はあるけれども検査では明らかな異常 が見つからないようなものの治療は苦手です。
漢方の場合は心身のアンバランスを整えることを治療の目標としてい ることから、こうしたはっきり病名がつけられないような症状を訴える 人や西洋医学的な治療法がない場合でも治療の対象となります。ストレ スなど精神的要因の影響が大きい症状にも適しているといえるでしょう。
また、漢方薬の処方は基本的に副作用が少ないために、虚弱体質の人 や高齢者にも安心して飲んでもらうことができ、長期間の服用も可能です。
漢方治療が向いている病気、向かない病気
西洋医学は「悪い部分を取る」、あるいは「やっつける」という治療を得 意としています。例えば初期のガンなどは、比較的安全に切除手術が行えるので、高い 確率で治すことが期待できます。また肺炎などの感染症のように治療の 緊急性が高く、効果が確実な薬剤がある場合も、西洋医学的な治療を優 先したほうがよいでしょう。
その半面、西洋医学は「何となく体がだるい」とか「疲れが取れない」「風 邪をひきやすい」など、自覚症状はあるけれども検査では明らかな異常 が見つからないようなものの治療は苦手です。
漢方の場合は心身のアンバランスを整えることを治療の目標としてい ることから、こうしたはっきり病名がつけられないような症状を訴える 人や西洋医学的な治療法がない場合でも治療の対象となります。ストレ スなど精神的要因の影響が大きい症状にも適しているといえるでしょう。
また、漢方薬の処方は基本的に副作用が少ないために、虚弱体質の人 や高齢者にも安心して飲んでもらうことができ、長期間の服用も可能です。
併用するケースも
病気や症状、患者の状態などによって、漢方が向いている場合と西洋医学を優先したほうがいい場合があります。しかし必ずどちらかに分かれるわけではなく、手術後の体力の回復のために漢方を用いるなど、両者を併用するケースも増えています。漢方治療の基本は『証』
漢方では、「証」という漢方独自の見立てを用いて病人の状態を把握することが基本になります。これは、
●本人が訴える症状(自覚症状)
●検査や診察によって分かる状態(他覚的所見)
●体格
●その人の個人的な特徴(性格など)
を総合的に判断して「証」を決定し、それに合わせて漢方薬を処方してい くという方法です。そのため、「胃がもたれる」という同じ症状であっ ても、自分の証とほかの人の証が違う場合は処方される漢方薬は異なります。
漢方の診察法・四診
漢方の診察は、「四診」という独特な手法を用いて行います。四診は「望 診」「聞診」「問診」「切診」の四種類の診察法によって構成され、西洋医学 と共通している部分もあります。しかし基本的には、西洋医学のように 検査を中心に診断を行うのではなく、医師が自らの五感を利用して患者の 身体からさまざまな情報を得ていきます。四診による診察は、患者の「証」を見極めるうえで欠かせないもの。四 診で得られた情報をベースに、時には西洋医学的な検査データも参考に しながら、より正確に患者の全体像を把握していきます。
西洋医学との違い
四診などで得られた情報をもとに、漢方独自の指標に当てはめて「証」を決定します。 とくに重視されている指標には「虚・実」「陰・陽」「気・血・水」などがあります。■ 虚・実
「虚・実」は、基礎体力や体質、抵抗力の強さなどを判断する指標とし て用いられています。「虚証」は生命力が低下し、体力や抵抗力、闘 病能力が乏しくなった状態であり、反対に「実証」は生命力や 体力に余裕があって積極的な治療に耐えられる状態を指します。
一般に、年齢を重ねるとともに虚証気味になり、また女性は男性よりも虚証の人が多 い傾向があります。
なお漢方では、虚証と実証どちらかに極端に傾いている状態は好まし くないとされており、バランスのとれた状態(中庸)を理想としています。 虚実の違いによって、処方される漢方薬は大きく異なります。
■ 陰・陽
「陰・陽」は漢方の診療においては、一般に「熱がある状態、新陳代謝が 活発な状態」を「陽証」、反対に「冷えている状態、新陳代謝が低下し た状態」を「陰証」と考えます。これは、急性の疾患における病態に ついても、普段の体質についても言えることで、急性疾患では病初期は 「陽証」で病気と闘う力が盛んですが、病気が進行するに従って病気と 闘う力が衰えた「陰証」に移っていくことが一般的です。
治療の観点からは「陽証」に対しては「冷やす治療」を、「陰証」に対して は「温める治療」を行うことが原則です。
胃腸症状を判断する重要な指標、気・血・水
漢方診療の指標の中でも「気・血・水」は基本になっており、身体全体のバランスが整っていて元気な状態を 「気血水が整っている」といいます。この「気・血・水」は、胃腸症状を判断する際の非常に重要な材料となっています。では「気・血・水」とはどの ようなものなのでしょうか。
■ 気は、「元気」「気力」「やる気」という言葉で表されるような目に見えない『生命エネルギー』を指 します。また、「気分」や「気持ち」といった精神状態や、「空気」「気体」といった『ガス』の意味も含んでいます。
■ 血は、全身を巡り、栄養分を運ぶ作用のある物質、現代医学のほぼ血液の意味に近く、『血液とその働き』を表しています。
■ 水は、汗や痰、鼻水、リンパ液など、『血液以外の水分とその働き』を指します。
漢方では「人間の身体は気・血・水の3要素が体内をスムーズに循環することによって維持されている」と 考え、これらが過不足なくバランスを保って順調に循環していることを「気・血・水が整っている」健康な状態 とみなしています。
逆にこのうちのいずれか、あるいはいくつかが不足したり、滞ったり、偏ったりすると、不調や病気、障害 が起きてくると考えられています。
胃腸以外にも起こる、こんな症状
気・血・水のバランスが崩れると、胃腸は正常に機能しなくなります。気・血・水のどこに、どのような障害が 生じているかによって、胃腸以外にも次のような症状が現れます。「気」の異常で起こる症状
■ 気虚「気」には生まれつき持っている「先天の気」と、生まれて以降に食べものなどから得られる「後天の気」があり ます。「気」は加齢とともに少しずつ減っていきますが、過労や睡眠不足、病気などでも不足することがあります。 気の量が不足し、十分に働かない状態になることを「気虚」と言います。
気虚になるとやる気が起こらなくなり、倦怠感や食欲不振、疲労感、強い眠気を訴えます。免疫力も低下するた めにすぐ風邪をひくなど体調を崩しやすく、一度病気になると長引いてしまいがちです。
■ 気うつ
気の流れが滞った状態を「気うつ」または「気滞」と言います。憂うつ感や不安感、のどが詰まったような感 じは、気うつの典型的な症状と言えるでしょう。なお、気は自律神経をコントロールし、消化・吸収の機能 にもかかわっているため、気うつになると胃腸にもさまざまな不調が現われます。
■ 気逆
「気逆」は、気の分布異常のこと。本来、気は上にいきやすい性質があるため、身体の上部に気が集中する と、のぼせやほてり、頭痛、動悸などの症状が現われます。
「血」の異常で起こる症状
■ 瘀血血が滞ることにより、全身の血の巡りが悪くなった状態を「瘀血」と言います。瘀血になるとさまざまな症 状が現われます。特に、月経痛、月経血量が多い、月経周期の異常、頭 痛、肩こり、冷え(手足、下半身)など、女性が抱える悩みの多くは、瘀血が関係しています。
■ 血虚
「血虚」とは、瘀血の量が不足した状態、あるいは血液の働きや血液を作る機能が低下した状態を指します。 顔色が悪く、疲れやすくなるほか、月経不順、月経血量が少ない、貧血、皮膚や粘膜の乾燥、冷えなどの症状が見られます。
「水」の異常で起こる症状
「水毒」は、リンパ液や唾液、汗など血液以外の体液の代謝や排泄のバランスが崩れ、身体の中で過不足や偏在など が起きている状態のことです。とくにむくみは水毒の特徴的なサインで、身体全体あるいは局所の水分が過剰に蓄積され、 水はけが悪くなっていると考えられます。また、水毒ではむくみのほか、頭痛やめまい、立ちくらみ、胃部の拍水音(チャプチャプ音がする)、神経 痛、関節痛、下痢、尿量の異常(通常よりも多い、あるいは少ない)などの症状を訴える場合もあります。 水毒は季節や天候による影響を強く受けるため、湿気の多い梅雨時や夏に体調を崩す人が増えます。
漢方は脾虚の治療が得意
漢方では胃腸とその働きを「脾胃」と呼んでおり、脾胃はとくに「気」の働きと深いかかわりがあります。 脾胃は大地の恵みである食物を消化・吸収して「後天の気」を作り出すと考えられており、食欲がない、 すぐ胃がもたれる、下痢しやすいなど脾胃が弱っている「脾虚」の状態では、十分に気を取り込むこ とができません。その結果、気が不足した「気虚」の状態となり、倦怠感や疲れやすさ、すぐに眠くなるなどの症状が現われます。
元気になるためには、気虚を改善しなければなりません。そのためにはまず、脾虚つまり胃腸の働 きを良くする必要があるのです。漢方は脾虚の治療が得意ですから、上手に利用していきましょう。
漢方には、「養生」という言葉があります。これは、病気のときに身体をいたわるという意味だ
けではなく、ふだんから自ら健康に気をつけるということ。毎日元気で気持ちよく過ごすために、受
身ではなく健康について考え、努力をしていく積極的な姿勢が必要です。
まずは現在の生活習慣を見直し、食事、運動、休養などにおいて良くないと思われる部分は改善をし ていきましょう。また、すでに不調を感じている人は、根気強く治療を続けることが大切です。漢方 の養生は、現代のセルフメディケーションに通じているのです。
まずは現在の生活習慣を見直し、食事、運動、休養などにおいて良くないと思われる部分は改善をし ていきましょう。また、すでに不調を感じている人は、根気強く治療を続けることが大切です。漢方 の養生は、現代のセルフメディケーションに通じているのです。