ストレスと漢方 ―ストレスと上手に付き合うために―
~漢方医学とは~
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近年、ストレスが人間の身体や精神に大きな影響を及ぼすことは良く知られるようになりました。ストレス フルな環境のなかで心身の健康を維持していくためには、外部から絶えず加わるストレスにいかに的確に対処する かが重要な課題となってきます。その対策のひとつとして漢方の知恵を大いに活用してみてはいかがでしょう か。毎日を明るく過ごすために、この冊子がお役に立てれば幸いです。
ストレスってどんなもの?
私たちは「ストレス」という言葉を良く使いますが、ストレスとはい ったいどのようなものなのでしょうか。手にゴムボールを持っている状態を 思い浮かべてください。握るとゴムボールはへこみます。このように、 外部からの刺激「ストレッサー」を受けることによって、生体に生じた 歪みが「ストレス」なのです。最近は、刺激と歪みを含めてストレスと呼んでいます。ストレスはどこにでもある
私たちが生活する環境には、さまざまなストレスが存在しています。 病気や怪我、睡眠不足、不規則な生活など身体的なものから、家庭や職 場の対人関係のような精神的なもの、広い意味では、空腹や飢餓、過労や 睡眠不足、寒さや暑さ、気圧の変化、振動や騒音、有害な化学物質や大気 汚染などもすべてストレス刺激なのです。このように、私たちは常にスト レスとは切っても切れない生活を送っているということになるのです。良いストレス、悪いストレス
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ストレスが身体に与える影響
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人間の身体には、
◆身体の働きを調整する「自律神経系」
◆ホルモン分泌をつかさどる「内分泌系」
◆外部の異物から身体を守る「免疫系」
という3つのシステムがあり、互いに連携を取り合うことによって健康 を保つ「ホメオスタシス(生体恒常性)」という機能が備わっています。
外部からストレスという刺激が加わると、それぞれのシステムが作動し、 その時々に適した状態に身体を適応させるのです。たとえば、神経系の うちの自律神経系は各器官にストレス刺激に対応した反応を働きかけ、 内分泌系は内分泌腺に働きかけてホルモンを血中に分泌させて身体のバ ランスを保とうとします。
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たとえば、ストレスがかかって緊張すると血管が収縮して血圧が上が りますが、これはだれにでも日常的にあることで、しばらくすると血圧 は下がり、血管も正常な状態に戻ります。しかし、ストレスが続くと血 管の休む間がなくなり、徐々に血管壁が傷つき、ストレスが去っても血 圧が下がらない状態になります。これが動脈硬化であり、高血圧です。 もちろん高コレステロール、喫煙、加齢なども関係がありますが、スト レスは大きな原因のひとつと言って良いでしょう。
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ストレスの感じ方は人によって違う
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たとえば面倒な残業を半分終えたところで、「もう半分も片付いた」と プラスに考えられる人もいれば、「まだ半分も残っている」とマイナスに 感じる人もいるでしょう。また、仕事で同じストレスがかかっても、それ をバネに力を発揮できる人がいる反面、負担に感じて実力を発揮できない人 もいて、同じストレスが人によって良くも悪くもなるのです。
外出する、趣味を楽しむ、十分睡眠をとる、好きな音楽を聴くなど、 自分なりの方法でストレス対策をしている方も多いことでしょう。ストレス によるマイナスの影響をより少なくし、ストレスと上手に付き合っていくこ とが大切です。
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漢方は身体全体を診る
西洋医学では臓器別に異常を探し出し、治療を行います。原因が明ら かな病気には大変効果的ですが、ストレスに関連した症状のように、原 因がひとつに絞れない、あるいは、はっきりしないようなケースでは、 治療が難しくなってしまいます。たとえば、胃潰瘍という病気に対して 薬を処方し、胃潰瘍を治すことはできます。しかし胃潰瘍の一因になっ ている、あるいは悪化させている「ストレス」まで解決することはできま せん。一方、漢方では身体全体を診ることを基本にしています。心身のアン バランスが不調の一因になっていると考えて、身体全体を良い状態にす ることで各々の症状も治してしまおうというのが漢方です。そのため、 原因が特定しにくく、病態とのかかわりがはっきりしないストレスの治 療には大変便利なのです。
「未病」の段階でケアを
漢方には「未病」と言う考え方があります。未病とは、病気と言うほ どではないけれど健康とは言えない状態を指します。未病の段階では、 いろいろな兆候はあるものの、検査をしても異常が見つからなかったり、 取り立てて日常生活には支障がないので、危機感を抱いている人はあまり 多くありません。そのため、つい無理を続けてしまいがちです。しかし、身体に現れているさまざまな兆候は、「助けて!」という危険 信号です。そのままにしておくと歪みは大きくなり、ちょっとしたこと がきっかけで病気になってしまう危険もあります。心と身体に大きなト ラブルが生じる前の未病の段階で予防をしていくことが大切なのです。
病気の治療とともに体調を整えることを大きな目的としている漢方薬は、 未病のケアが得意。ひとつの症状を改善するばかりではなく、全身をベ ストな状態に導いてくれるのです。身体の調子が良くなれば、気持ちも 前向きになるもの。何となく体調が悪いという段階で、早めに対策を立 てるのが病気予防のポイントです。
気・血・水の乱れに注目
漢方では一人一人の体質や症状、精神状態をいろいろな尺度で把握して、 それに合わせた漢方薬を処方します。尺度にはいくつかありますが、代表 的なもののひとつが「気・血・水」の3要素です。「気」とは、「元気」「気力」 などの言葉から連想されるように、目に見えない生命エネルギーのこと。 「血」とは血液とその働き、「水」は血液以外の水分とその働きを指します。 漢方では身体の中でこの「気・血・水」の3つが過不足なく保たれ、循環して いる状態を「健康」と考えているのです。気・血・水のどれかが不足したり、滞ったりしてバランスが崩れると、 体調は崩れます。たとえば「気」の場合、過度のストレスが加わることで、 気の量が不足する「気虚」、気の流れが滞る「気うつ」、気が正常に分布し ない「気逆」などが生じます。こうした気の異常は、さまざまな症状と して心や身体に現れてくるのです。血や水の場合も同様で、それぞれが 独立しているわけではなく、相互に影響を与え合っています。
個人に合った処方を選ぶ
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さまざまな処方の中から、その人が困っている症状のほか、「証(漢方 独自の体質)」などを参考に、その人に最も合った処方を選択していくの です。表はその一例です。
たとえば、憂うつや不安、不眠、イライラなど、主に精神症状が現れ ているような場合には、半夏厚朴湯や香蘇散を処方します。そのほか、 胃腸が弱くて体力がない場合は六君子湯や柴胡桂枝湯など、頭痛やめまい、 肩こりなどには葛根湯や半夏白朮天麻湯を処方します。また、気・血・ 水でいくつか症状が重なっているケースも多く、いずれも体質を見極め てどの歪みがどの程度強いかを判断し、処方を決定します。
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漢方治療の基本は『証』
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2種類以上の薬を併用する際に問題となるのは、それぞれの薬の効果が十分に現れなかったり、逆に薬効が増強されすぎてしまう など、思わぬ現象が生じることです。漢方薬と西洋薬の併用では、このような心配はほとんどありませんが、なかには併用を避けた ほうが良いケースがあります。どちらも同じ医師から処方してもらうか、それぞれの医師に薬の種類を伝え相談してください。
~養生のすすめ~
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ストレスのレベルを把握していれば、身体からの危険信号を見落としにくくなります。自分の生活をもう 一度見つめ直すという意味では、まず自分のストレスを認めることが、ストレスを病気にしない第一歩です。
そして自分の健康維持に積極的に取り組むことも大切。食事や休養、生活リズム、運動など生活習慣 全般について、受身ではなく自ら考え、努力することが必要でしょう。これこそ古くから漢方で言われて きた「養生」なのです。