身近な漢方 ―女の更年期、男の更年期
平均寿命が飛躍的に延びた現代でも、更年期になる年齢は、昔と大きく変わっていません。人生50年といわれていた時代なら、更年期は老年期への入り口を意味していましたが、いまや人生80年の時代です。50歳前後は、まだまだ働き盛り、これからひと花もふた花も咲かせようという時期です。そんな時期にやってくる更年期を明るくのりこえることは、その後の人生を豊に過ごすためにも大切な問題です。
更年期は治療によって症状を軽くすることのできる疾患です。この本では、男性にも訪れる更年期について、更年期の症状改善に効果が期待されている漢方を中心に分かりやすくまとめてみました。人生半ばに訪れる、更年期という試練をのりこえるお手伝いになれば幸いです。
更年期は治療によって症状を軽くすることのできる疾患です。この本では、男性にも訪れる更年期について、更年期の症状改善に効果が期待されている漢方を中心に分かりやすくまとめてみました。人生半ばに訪れる、更年期という試練をのりこえるお手伝いになれば幸いです。
女のつらさ -「わかってもらえない」
更年期は、本人のつらさが周囲に伝わりにくい病気です。症状も個人差があり、変化しやすいこともあって、理解されにくいのです。目に見えてわかるような異常がなにのに、つらい、しんどいとばかり訴えていると、「気のせい」「甘えている」、はては「これだから女は・・・」とまでいわれることもあります。周囲の無理解が、症状のつらさにいっそう拍車をかけるのです。女性の更年期に多い症状のなかで、ほてる、汗がどっとでる、という症状は西洋医学では「ホット・フラッシュ」といわれます。また、「冷え・のぼせ」は、上半身のほてりやのぼせと、下半身・手足の冷えが同時に存在するもので、西洋医学の考えでは理解しにくいものですが、実際には非常に多く見られる症状です。
男のつらさ -「俺はもうだめなのか」
更年期は、本人のつらさが周囲に伝わりにくい病気です。症状も個人差があり、変化しやすいこともあって、理解されにくいのです。目に見えてわかるような異常がなにのに、つらい、しんどいとばかり訴えていると、「気のせい」「甘えている」、はては「これだから女は・・・」とまでいわれることもあります。周囲の無理解が、症状のつらさにいっそう拍車をかけるのです。女性の更年期に多い症状のなかで、ほてる、汗がどっとでる、という症状は西洋医学では「ホット・フラッシュ」といわれます。また、「冷え・のぼせ」は、上半身のほてりやのぼせと、下半身・手足の冷えが同時に存在するもので、西洋医学の考えでは理解しにくいものですが、実際には非常に多く見られる症状です。
コラム : 男のくすりと気のめぐり
勃起障害の治療薬として知られるバイアグラですが、これは元は血管を拡張して血流をよくする、循環器(心臓関係)の薬です。循環器の機能と勃起障害はまったく別の話ではないのです。漢方的にみて、勃起障害のような勢力減退は「腎虚 [ ジンキョ ] 」に含まれます。これは、「腎気 [ ジンキョ]」が衰えた状態をいいます。腎気は、成長とともに体内で充実し、青年期にピークを迎えるエネルギーのことで、その後次第に減少していくものです。腎気は勢力だけでなく、「心 [ シン]」の働きを調整する作用もあるため、腎虚に陥ると「心」の働きにも影響が出てきます。動悸、息切れの改善に飲まれている漢方の丸薬に、腎虚に使う成分が入っているのは、このためです。このように、漢方の世界では心の働きと腎虚が密接な関係にあると考えられているのは興味深いことです。
性ホルモンの減少が更年期の原因となる
西洋医学からみて、更年期の症状は、性ホルモンの減少が原因となって起こると考えられます。性ホルモンには、女性ホルモンとよばれるエストロゲンや、男性ホルモンと呼ばれるテストステロンなどがあります。性ホルモンは思春期のころから女らしさ、男らしさを作りますが、40歳後半になると減少してきます。長い間性ホルモンの存在になれた体の機能が、性ホルモンの減少でバランスをくずし、さまざまな不都合な症状が重なって現れたのが更年期です。ということは、減少した性ホルモンを補充すれば、更年期障害は改善されるはずです。その考えから、欧米では30年程前から女性に対するホルモン補充療法が広く行われており、最近では男性へのホルモン補充療法も一部実施されています。
● 女性のホルモン補充療法
エストロゲンを注射やパップ剤(貼り薬)で投与します。のぼせや汗をかきやすいとういうホット・フラッシュには非常によく効きます。しかし、冷え・のぼせや手足のしびれ、関節痛などは、ホルモン補充療法だけでは完全には治療できません。
また、乳がんの副作用の危険性がある程度考えられるので、エストロゲン投与を受けている人は、定期的に検査をする必要があります。
● 男性のホルモン補充療法
テストステロンを注射します。日本では、完全に認知された治療法とはいえません。男性機能の回復は期待できますが、闘争的になり、凶暴になる危険性が指摘されています。
ホルモンは多種多様な作用をもつ不思議な物質です。人工的に補充する場合は、ほかの臓器や精神面への影響も考慮して慎重に行うことが大切です。
コラム : 「人生の周期、女は7年、男は8年?」
1800年ほど前に中国で書かれた医学書、黄帝内径(こうていだいけい)には、人間の一生の変化を、女は7年、男は8年の周期で説明しています。すなわち、女性は7歳でエネルギー(腎気)が充実しはじめ、14歳ごろに生理が始まり、妊娠可能になり、21歳でからだが充実してきて、28歳でもっとも盛んな時期をむかえ、35歳頃からだんだん下り坂になって48歳で閉経を迎える。男性は、8歳で腎気が充実し、16歳で生殖能力をもち、24歳でからだが充実、32歳ごろに最も盛んな頃を迎え、40歳になると下り坂になって、48歳から56歳ごろに生殖能力、腎気の衰えが著しくなる、という考え方です。現代社会ではやや歳の周期がずれてはいますが、性ホルモンの影響で変化する体の状態をよく表現している考え方といえます。こうしてみると女性も男性も、更年期は腎気、精気の下り坂が終わる、その前後に一致します。2000年近い古代に、これだけのことが把握されていた、その観察眼には脱帽です。
「腎虚」と「気逆」
加齢に伴って起こる更年期は、漢方では「腎虚 [ ジンキョ ]」によるものと考えられます。女性の更年期は閉経前後に急激に起こる「腎虚」の影響で、「気逆 [ キギャク ]」を伴いやすいのが特徴です。冷え・のぼせ、ホット・フラッシュ(急激にのぼせて顔が赤くなる)、突然発汗する、動悸がする、イライラ感などの更年期によくみられる症状はこの「気逆」による症状です。また女性の更年期では血の異常(血虚 [ケッキョ] や瘀血[ オケツ ] )を伴う場合が多く見られます。
これに対して、男性の更年期では「腎虚」は比較的ゆるやかに進み、それに伴って起こる「気虚 [ キキョ ]」の症状が目立ちます。やる気がでなかったり、集中力がなくなったりするのは、そのためです。
● 腎虚 (五臓の一つ)
五臓は肝・心・脾・肺・腎のことで、現在の西洋医学における臓器の考え方とは異なります。人体の機能をいくつかに分類したうちの5つと考えて下さい。このうち腎の働きの一つに、先天の気、すなわち生まれつきもっているエネルギーをコントロールするというものがあります。このエネルギーは加齢により減少するので、年をとると腎虚がおきてくるわけです。
● 気逆
気とは「気・血・水 [ キ・ケツ・スイ ]」の三要素の一つで生体のエネルギーとその流を指します。「気逆」とはこの流が逆行している状態を、「気虚」とはエネルギーが低下している状態を、「気滞 [ キタイ ]」とは気の流れが滞っている状態をいいます。「血」は血液とその働きで、「血」の異常には「血虚」(血が不足している)と、「血」(血がめぐらず、滞っている)があります。「水」は血液以外の液体とその働きのことで、これが滞ると「水滞 [ スイタイ ]」となります。
女の漢方
「気逆」に対する生薬 + 「血」の異常に対する生薬 の組合せでできた処方が中心になります。<気逆に対する処方>
一般的に有名な加味逍遙散 [カミショウヨウサン] が、最もよく用いられていますが、温経湯 [ ウンケイトウ ]、五積散 [ ゴシャクサン ]、女神散 [ ニョシンサン] にも気逆を治す効果がありますので、症状に応じて使い分けます。いずれの処方にも「血」の異常を改善する成分も含まれます。
<その他の処方>
もちろん更年期の症状はこれだけで解決できるものばかりではないので、必要に応じて「気滞 [キタイ]」や「水滞 [スイタイ]」の処方を用います。十全大補湯 [ジュウゼンタイホトウ] や 八味地黄丸 [ハチミジオウガン] などの補剤が必要な場合もあります。
男の漢方
腎虚を中心に、ストレスに対する処方を考えます。代表的な処方 -八味地黄丸 [ハチミジオウガン]
腎気を補う作用があり、腎虚、すなわち精力減退、下半身の機能の衰え全般に効果が期待されるほか、最近では糖尿病や高血圧に伴う症状にも効果が期待されています。
ストレスが強い人には、竜骨 [リュウコツ]、牡蛎 [ボレイ]の成分を
ストレスによる影響が強く、精神的な症状が前面にでている場合には、竜骨、牡蛎という鎮静作用がある成分の入った漢方薬をしばしば使います。竜骨、牡蛎は鎮静作用がある成分です。イライラが強い症例には柴胡加竜骨牡蛎湯 [サイコカリュウコツボレイトウ]、不安が強い症例には桂枝加竜骨牡蛎湯 [ケイシカリュウコツボレイトウ] があり、これらの漢方薬は八味地黄丸と併用して処方することもあります。もっと抑うつ傾向が強い場合には、半夏厚朴湯などを使います。
比較的高齢で体力の衰えが目立つ -補剤
長い時間をかけて腎気が衰える男の更年期では、体力の消耗も深刻です。体力の衰えが著しい場合は、全身の体力を補う「補剤」を処方します。代表的な補剤といえば補中益気湯 [ホチュウエッキトウ] と十全大補湯 [ジュウゼンタイホトウ]です。女性でも体力の消耗が強い場合は補剤を使いますが、女性の場合は「血」の異常を改善する作用も含まれた十全大補湯、男性には補中益気湯を使うことが多くなります。
男女の理解が更年期を楽にする
更年期は、ストレスの影響も強く受けます。女性には、子供の自立や社会生活優先の夫のために家にひとり置き去りにされた寂しさがあります。男性には、職場で要求される物が増え、それに対し、気力や集中力、体力が若い頃のように出ないことの焦りがあります。男性も女性も、このような悩みを抱え、それがストレスになって、ますます症状が悪化するという悪循環が起きているのです。ご主人と奥さんが、互いの悩みを解決し、いたわるようにすれば、ストレスはずいぶん軽減され、精神的なバランスをとる助けになります。更年期治療は夫婦一緒に行うべき、という意見がありますが、それはこんな理由からなのです。
食養のすすめ
食事も、心がけ次第で更年期の症状を軽減する助けになります。まず冷たいものを避けてバランス良く食べることが大切です。女性の場合は、豆類に多く含まれるイソフラボンが女性ホルモンによく似た成分として、骨粗鬆症予防に注目されています。また、甘い物や塩辛いものの摂りすぎは「腎」の働きを悪くするもので、男女を問わず避けたいものです。
食事以外でも、毎日しっかり歩いて運動不足にならないようにし、お風呂はぬるめの湯を使い、下着類はあまり締め付けるようなものは避ける、時間に追われるようなあわただしい生活は避け、リラックスした生活を送る、といったことを意識するだけで、更年期の症状はだいぶ改善されます。
更年期の症状は、治療によって改善できるものです。専門医と相談しながら、西洋薬、漢方薬を上手に使って、快適に更年期をのりきりましょう。